線虫検査はがんを見分けられない検査? – ニュースで話題の疑惑の検査について、医師が解説

最終更新日:2022/04/15

「尿1滴でがんを判断できる」という謳い文句で知られている線虫検査は、実は問題が山積みの検査です。この記事では、その問題点について詳しく解説します。

この記事を書いた人

上松 正和

Masakazu Uematsu

医師・放射線治療専門医

東京大学病院放射線科所属。1987年生まれ。九州大学卒業後、東北での初期研修・救急科研修を経て、国立がん研究センター中央病院放射線治療科で勤務後、現職に至る。 「自分が担当した乳がん患者さんが、詐欺医療に引っかかって病状を悪化させたことを契機に、詐欺医療に引っかからないための情報を発信しています。」

【線虫検査】問題だらけのがん検査?

線虫検査については、検査会社の広告で謳われている通りの感度・特異度であっても問題が残るということについては以前の記事でご説明しました。しかし、それ以前の問題として、そもそも「がんを判別できていないのではないか?」という問題があります。

ブラインド検査が行われていない

この線虫がん検査(N-NOSE)を提供しているHIROTSU BIOSCIENCEは多くの論文をその根拠としてアピールしています。一方で、その中には質の高いといえるものはなく、特にその中でも、質の高いエビデンスになり得るブラインド検査というものを行っていません。

ブラインド検査とは

ブラインド検査というのは、試験者(ここでは検査会社)にわからない形で試験をすることです。

医療の世界では、薬の効果判定をするときに、どうしても医師が「薬を投与したから病気は良くなるはずだ!」と思い込んでしまって評価してしまいがちです。皆さんも、自分が見つけた物質に世界を救う可能性があると聞いたら、少し肩入れしたくなりますよね。

そういった無意識の影響を防ぐために、医師には本物の薬かどうかを伝えずに薬を渡して、その薬を患者さんに投与することで評価をします。これをブラインド検査と呼びます。線虫検査も例に漏れず、このブラインド試験が必要になります。具体的には、尿サンプルをランダムな番号などで管理して検査会社が「がん患者の尿」なのか「そうでない人の尿」なのかをわからない状態で線虫を泳がせる検査は行われるべきです。

 しかし、実際に行われているのは、がん患者の尿では、そうであることがわかるようなラベルが貼られた状態での検査です

この形だとがん患者か健常者か検査会社は区別できるため、検査会社は「がん患者の方に線虫が寄るはずだ!」と思い込んで計測してしまいます。

【線虫検査】検査会社に対する疑念

さらに、実はこの検査会社に対しては、がんがあろうがなかろうが関係なく、一律で陽性を15%にして返しているのではないかという疑いがありました。

疑念を持った病院が、健康な人の尿を一切提出せず、がん患者さん20名の尿”のみ”をこの会社のスクリーニング検査に提出したのです。感度が86.5%のはずなので17名程度は陽性と出るはずですが、陽性と返ってきたのはたったの3名でした。このことを受けてさらに、検査会社の報告に対する疑惑が深まりました。

このことを受けてHIROTSU BIOSCIENCEは声明文を出しました。

検査会社の声明で発覚した検査体制とは?

この声明では「通常ではあり得ない多数のがん患者の方の検体が、短期間で提出されることによって、計算処理に異常が生じ、同時に検査を行った一般の受検者の方の検査結果にも影響を与える事態」とあります。

通常、各検体に対する検査は互いに独立であり、その精度は互いに影響を及ぼしません。1人を調べたときと、100人を調べたときで精度が変わる検査がおかしいことは感覚的にもご理解いただけるかと思います。線虫がん検査が被検者の状態のみに依存せず、提出された検体の数や、提出した医療機関によって結果が異なることを明言したとも受け取ることができます。これは通常のがん検査ではありません。

これを別の例でたとえると、がん検診で「肝がん患者が連続で続いたから、次は肝がんがあるけど、正常と報告しよう」といってしまうようなものです。HIROTSU BIOSCIENCEからの声明は、このがん検査の信憑性を著しく損なう声明となりました。

検査に関する疑惑は、科学的に議論される必要がある

現状ではこの線虫がん検査は質の高いエビデンスが示せていない以上、疑惑の払拭ができる程度のブラインド検査をする必要があります。直近では米国でも、血液一滴でがんを示せると謳った検査を販売していた企業が、実際にはそれが虚偽だったとして罰せられたことで話題となりました。今後、科学的な形での議論が展開されることに期待します。

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